2012年12月24日月曜日

知的創造活動を取り入れた企業作り



アップルが、
イノベーションで最も活躍した企業の一つであることは、誰もが認める。アップルの成功の源は、先日、亡くなったスティーブ・ジョブズの創造性とリーダーシップであろう。アップルという創造的な企業は、どの経営者も憧れ、模範としたい企業と言える。経営者にとって、どのような企業であるべきか?と問う場合に、アップルのようなイノベーションが起こせる企業を目指そうと考える経営者も多い。

 それでは、今後のIT経営者は、スティーブ・ジョブズのように、強烈な創造性とリーダーシップを兼ね備えた経営者にならないと、イノベーションを起こす企業にはなれないのでは?と考えるのも当然である

 経営者にとって、リーダーシップは、なくてはならない。しかし、強烈な創造性は、自社製品を誰よりも知っている、貴社の全社員の”知”を利用してみてはどうだろうか。

 会社の製品は、自社の様々な部署の者が、異なる立場から、毎日、真剣に頭を悩ましている。例えば、営業部であれば、いかにして売れるかという視点で、技術部であれば、いかに品質がよく出来るかという視点で、カスタマーサポートから見れば、いかにしてお客様に使いやすいかという視点で、部署によって多面的に捉えられているはずだ。

 これらの自社内の知を融合して、経営に役立つ知に変換できているならば、スティーブ・ジョブズほど高い創造性がなくても、経営のヒントになる”知”は、自ずと見えてくる可能性があるのではないだろうか。

 つまり、自社内の”知”を活かす企業内の製品知を活かすシステムづくりこそが、天才的な創造力を一人有するよりも、イノベーションを実現できる企業になるのではないかということを提案したい。

 米国のIT企業では、このような製品知のヒアリングを、企業の外部の弁護士や弁理士に依頼している場合がある。製品知のヒアリングは、部署間の力関係や、部署内の人間関係に依存してしまうことが多いため、外部の人間であって、しかも、発明や特許の取扱いに詳しい弁護士や弁理士に相談できることは、末端のエンジニアにとっても、相談しやすいのであろう。

 天才がいればイノベーションができる、と安易に考えるのではなく、その天才にも匹敵する“知”を企業のシステムとして作っていく。知を活かす企業であるならば、そんな企業作りが求められているのではないか。

2012年11月19日月曜日

外国で適切な特許を取るためのコミュニケーション


外国で適切な特許を取得するときには、その現地語での適切な翻訳が重要です。

このことは、皆さん同意されるはず。

ですが、多くの日本国内の特許事務所では、翻訳者や各国の弁理士に、発明を直接、口頭では説明していないのが通常です。でもそれって、発明を把握するのに誤解が生じて誤訳が生まれたり、翻訳に時間がかかるのでは?と思いませんか。

その感覚は、外国代理人も同様のようです。先日、日本の出願をパリルートで韓国に出願するにあたり、韓国の代理人から発明を説明するための電話会議をしてほしいと依頼がありました。

電話会議は、発明提案書に基づいて説明が行われ、発明の本当に大事な点と、サブ的に大事な点を効率よく説明することができました。また、発明の内容のみではなく、発明者の発明に対する想いや、この発明を権利化したいという会社の意欲、そして、会社のビジネス内容も、現地代理人に伝えることができました。

発明の内容をメールしたから大丈夫。という考え方もあるかもしれませんが、貴社の特許になる大事な技術であれば、さらに、現地の専門家と直接的なコミュニケーションを行う時間を設けて、万全な特許化に望みたいですね。

2012年10月11日木曜日

知財支援をしている企業様が特許資産ランキングで9位に!

弊所が、知的財産部の支援と弁理士としての代理人を行なっている、佐賀のITベンチャー企業「株式会社オプティム」さまが、情報処理分野における、2011年度の特許資産ランキングで9位にランクインしました!

NTT、ヤフー、マイクロソフト、NHKといった、大手企業の中で、特許資産を高く評価されたことは、大変、喜ばしく感じます。我々も、弁理士として、価値あるアイデアを形にできて、サポートできたことを誇りに思います。

このランキングの中で、オプティム社は、他の企業に比べて、特許の取得数が少ないにも関わらず、特許資産が高いと評価されています。これは、取得した特許の1件あたりの価値が高いということを意味しています。ですので、特許出願に対するコストを抑えながらも、一つ一つに価値がある特許を産み出しているといえるでしょう。

このような結果は、オプティム社の発明アイデアが卓越していることは、もちろんのこと、新しく、若い企業であるにもかかわらず、知的財産に対する意識の高さが導いていた結果といえるでしょう。

弊所も、今後も、さらに、日本で元気のある若い企業を応援し続けたいと思います!

2012年8月21日火曜日

プロトタイプ制作はイノベーションへの近道(平成23年特許法改正との関連にて)

Miyazaki Roboticsでは、子供たちが一生懸命創作します

「アイデアの良さを伝えるために何かを作るのではなく、それがどんなものであるべきかを考えるために何かを作るのです。」

カルフォルニア州に本社を置く、デザイン会社「IDEO」のCEOであるTim Brownは、迅速なプロトタイプ制作を行なって、デザイン思考でソリューションを提供し、それが、イノベーションにつながると言われている。

「このアプローチは通常の企業では、なかなかうまくいきません。誰も製作途中のプロトタイプをCEOに見せようとはしないからです。つまり、製作途中で批判されたくないからです。」
「でも、本来、人は、アイデアの良さを伝えるために何かを作るのではなく、それがどんなものであるべきかを考えるために何かを作るべきです。」

そういえば、コストを理由にして、手を動かすことを、やめていないだろうか?
”アイデア”や”知”ということにこだわっている弊所のような事務所には、耳が痛い話。

先日、80歳近くの宮崎の発明家にビジネスにとって大事な構成要素を教えていただいた。

「ビジネスには、まずは、IDEAそれを形にするHandwork。それを伝えに行く、Footwrok。会った人から生まれるNetwork。作ったNetworkを、仲間にしていくTeamwork。これらが、あわさって、初めてビジネスが成功するのだよ。」

確かに、アイデアを形にして、共有して、仲間を作って広げていく。シンプルに考えるとその過程がないと、アイデアは成功しない。共有するためには、アイデアを形にする必要がある。そのためには、Handwork(手を動かすこと)が重要ということ。

そして、モノをつくってみて、それから、学んで、さらに、アイデアを掘り下げて行く必要がある。単に、プロトタイプを作るだけで終わってしまっては、なんのために作るのか、目的を見失う。つまり、プロトタイプを作ってみて、「ここの部分は、こうでなくちゃいけないな」とか、「ここの部材は、こうでなくちゃダメだ」とか、いろいろ改良を加えることで、さらに、アイデアを掘り下げることができる。

スタンフォード大学の学生であるフェロス・アブーカアディジエは、即時性のあるYoutubeを作って、第2のスティーブ・ジョブズと呼ばれている。彼は、こう言う。

「アイデアなんてどこにでも転がっている。肝心なのはそれを実行することだよ。」

彼のようなプログラマは、最初にプロトタイプを作ってみる。そして、最も厳しいユーザである自分が使ってみて、あれが駄目だ、これが駄目だ、と学ぶ。 彼自身は、様々な他のサービスを知っているから、多くの駄目出し、ができて、自分自身で修正する。そして、彼が満足するものに完成する。

手を動かして、初めてアイデアが具現化して、さらに、良いものへと昇華して、イノベーションへ・・・といえばよいだろうか。このように最初のアイデアを基点として、そこからベクトルのように、改良されたアイデアを、基点からの延長線として伸ばしていく。このベクトルは、特許法上は、発明の単一性と呼ばれており、この延長線が長いと、筆者の経験上、特許成立率が高くなる。

さて、このようなアイデアの実現方法が一般的に認知されてくることで、平成23年(平成24年4月1日施行)に特許法30条が改正された。

それは、製品を販売したり、製品を一般に公開することで、製品が新規であることを失ってしまった(新規性喪失)後でも、所定の手続き(新規性喪失の例外の手続き)を行い、条件をクリアすれば、特許を取得することが可能となるという内容である。

改正前でも、雑誌や、インターネット、特許庁長官等が指定する所定の学会、展示会等で製品の公開をしても、新規性喪失の例外の適用があったが、法改正により、製品の販売や、テレビでの放送による公開、展示会など網羅的な公開事項もこの新規性喪失の例外の対象となった。

少し脱線するが、この改正は、宮崎などの地方にとっては、とても大きな意味がある。現実的に、特許庁長官等が指定する展示会は、東京、大阪、福岡等の都市部の展示会に限定されていたのが現実であった。そのため、宮崎県の市町村が行う地方の展示会が、この特許庁長官等が指定になっていることが少なく、特許獲得を断念することも多い。このように、都市と地方間において知財保護の格差があることは否めなかった。

「新製品を作ったら、何よりも早く、特許出願しなくてはダメなんです!なぜなら、特許要件である新規性が失われてしまいますから。」

弁理士は、このような説明をするのが一般的である。したがって、製品が売れるのか、売れないのか、判断がつかないまま、ひとまず、特許出願することを勧められていた。

特許出願は、中小企業の開発費用としては、高額である。最近の法改正で、審査請求料が、若干、減額されたが、登録まで合計50万円近くの費用がかかることは否めない。

したがって、結果的に、特許出願を行うことは、コスト的に躊躇されることも多い。例えば、製品を販売してみて、顧客の反応が良く、これは、売れるな、と感じられてから、特許を出願したいというのも自然な考え方である。

販売が好調であると、特許出願費用も、売上額の一部から捻出することができるし、なにより、同じような製品を他社に模倣されて、販売されては困る。したがって、この販売見込みが立った時点で、特許出願を行うことは、ビジネスの流れからは、自然である。

これが、平成23年度の改正で、販売も、新規性が喪失した例外的な扱いとして、認められた。平成24年4月1日より、この制度が適用されているので、企業においても、販売実績を考慮して、特許出願を行うことが可能となった。

ただし、販売してから6ヶ月以内に、特許出願を行わなくてはならない。特許事務所に、特許の書類作成を依頼すると、1ヶ月程度かかるので、事実上、5ヶ月程度で、判断する必要がある。

一般に、製品を販売して、他人に公開するという行為は、アイデアの創作者にとっては、製品の成否が問われるため緊張を迎える場面である。したがって、販売前にさらに、アイデアが高まることもある。それと同時に、この販売行為の後に、創作者は、その製品に関する様々な情報を消費者等の関係者から取得する。したがって、この販売行為の前に、特許を出願してしまうと、販売後に得た情報に基づいて、改良したアイデアの特許を出したくなるだろう。

もちろん、最初のアイデアで特許を出願しておいて、改良版ができてから、2件目の特許を出すこともできる。しかし、今回の特許法改正により、他の選択肢として、販売後に新規性喪失の例外規定を適用して、改良された製品で、1件の特許出願をまとめて行うこともできるようになった。

さらに、アイデアが高まった改良版であれば、最初のアイデアを基点として、拡張されたアイデアを含む発明となっているので、特許が拒絶された場合には、その改良点に限定して補正して、特許を取得することもできるため、特許が成立する確率も高まり、効率的な特許出願となると提案したい。

最初に創作したアイデアを基点として、プロトタイプを制作し、さらにアイデアを高める。そして、高めたアイデアでビジネスを成功し、かつ、高めたアイデアをしっかり特許で保護する。こんなアイデア活用のロードマップが、クリエイティブな企業活動に欠かせないのではないか。

※今回の法改正の注意事項としては、特許を出願せずに製品を販売して、知らない他人がこの販売された製品を見て、技術を盗み、元々の創作者よりも早く特許出願をしてしまった場合は、後から出した創作者の特許が認められない場合がある(特許法39条の適用で冒認出願と判明できない場合)。したがって、最初の販売は、信頼出来る限られた人にしたほうがよいと言わざるを得ない。コストが許されるのであれば、基点となる最初のアイデアで特許出願し、後の改良アイデアについて、国内優先権主張出願(41条)をするのが最も確実であることは、法改正後も同じである。

2012年6月19日火曜日

特許を出してみようか、と思ったら


「この製品は、アイデアあふれる製品なので、特許とったほうがいいと思うんですけど、特許をとるには、どういうステップを踏めば良いのですかね。いきなり、特許事務所に連絡すると、いくらとられるか、わからないし・・。」

こういう質問をされることがよくあります。

確かに、自分の発明に自信がない場合(自信がない場合のほうがむしろ普通かもしれません)に、いきなり特許事務所に連絡するのは、ちょっと敷居が高い・・、というのもわかります。

そこで、今日のブログは、特許をとってみようと思い、誰かに相談したいと思った時に、どうやって、特許出願までを行えばよいのか、留意すべきステップを書いてみようかと思います。


1.発明を相談できる専門家は、弁理士か、各県の知財総合支援窓口のアドバイザー

発明について、「これは、特許が取れる」ですとか、「特許をとったほうがよい」とか、そういった話を聞けるのは、弁理士(もしくは、特許事務所の所員の方)か、各県に設けられている知財総合支援窓口にいらっしゃる知財の専門家のどちらかが一般的です。弁護士、行政書士、経営コンサルタント等の先生は、日々の業務では発明を取り扱っていませんし、特許庁への手続きは弁理士しかできない業務ですので、これらの先生からは、あまりアドバイスをいただけないことが多いようです。

それでは、弁理士と知財総合支援窓口とでは、どちらにいけば良いのでしょうか?

弁理士に会うには、特許事務所で会うことになります。ですので、時間単位で相談料が発生する場合があります。しかし、最近では、弁理士業界も業界不振で、最初の相談は無料というところも多いようです。

一方、知財総合支援窓口は、都道府県や発明協会が実質的な運用主体であることが多く、無料の窓口なので、相談料について悩む必要はありません。しかし、弁理士ではないので、足を何回か運ぶ必要があります。また、知財総合支援窓口は、国が積極的に行なっていることから、中小企業の発明に熱心であり、個人発明家は、ビジネスに結びつかない限り、支援の対象になりにくい傾向があります。知財総合支援窓口には、各県の弁理士が登録されており、発明に特許性があると判断できる場合は、彼らを紹介してくれます。

2.特許を最終的に取得するまでのコストを確認しよう

特許出願費用以外にも、審査請求費用、特許料、拒絶の対応のために費用など、結構、その他の費用がかかります。最後までで、総額がいくらかかるのか計算して、おおよそのあたりをつけておきましょう。

3.県や国の助成金を利用できないか制度を確認しよう

中小企業の場合は、多くの県で、特許出願費用の半額を補助(上限はありますが)してくれます。これを利用しない手はないですよね。

ここまでは、弁理士か知財総合支援窓口に聞きましょう。

次からは自分で行動しましょう!

4.弁理士に明細書を書いてもらうか、自分で書くのか判断しよう

特許明細書って、見たことありますかね?特許庁電子図書館(IPDL)というところで見ればわかりますが、特許の明細書は、一般の人では、わかりにくい文章であることが多いです。また、発明は、抽象的な概念なので、文章に表現することは、結構、難しいです。可能であれば、お金を貯めて、専門家である弁理士に依頼することをお薦めします。

5.そして、弁理士に依頼する前になにをすればよいか

できれば、発明について、自分なりに文章を作りましょう。図面と文章で、客観的に発明が明らかになるような書類を頑張って作成しましょう。口頭のみですと、齟齬が出やすいとともに、発明者にとって重要な微妙なニュアンスが伝わらないことが多いです。聞き手の弁理士先生が優秀ですと、口頭でも詳細まで反映していただけますが、他人に頼りすぎず、自己責任でしっかり、文章を作る姿勢が大事に思います。

このときに重要なのが、発明は既に完成しているのか?という疑問を自分に投げかけましょう。つまり、文章を作成しながら、新しいアイデアが浮かんで来ませんか?

それですと、まだ発明は進歩する可能性があり、完成していないのです。アイデアをもっと進化させるのは、とても良いことだと思います。この文章を作っていて、進歩出来れば、限りなく前に進みましょう。そして、ああ、もうこの発明は、ここまで完成した!と思ったら、完成したところまでを弁理士に相談しましょう。さすがに、執筆を依頼した後に、こっちの方が良いアイデアだからといって依頼内容を変更すると、せっかく作成した文書が無駄になるので、弁理士先生だって悲しくなります。

6.弁理士に明細書を作ってもらったらどうするか?

チェックしましょう。「え、でも、どうやってチェックするの」って?「専門家が書いたのだから、見る必要がない」?
まず、図面をみましょう。あなたのイメージ通りですか?視覚的に同じものだと認識できますか?そのイメージをもって、明細書内の【図面の簡単な説明】という項目から下の文章を図面ごとに読みましょう。がんばって!

そして、弁理士に、こう質問しましょう。

「先生、この明細書の中の、どの技術を他人が使うと、僕は文句を言えるのですか?図面で指さしていただけますか?」

そう聞くと、きっと、先生は、あなたがこの特許で獲得できる権利範囲について、図面を用いて、詳細に教えてくれるでしょう。

7.そして、出願! by 特許事務所

お疲れ様でした。

こんな流れが、お客様にとっても、弁理士にとっても、スムースなのではないかと思います。

ごのチェックリストを是非とも活用ください!

(写真は、お気に入りのScienceトランプです。William Haleのロケットの特許が記載されています。詳細を知りたい方は、事務所に置いてあるので、見に来てくださいね!)

2012年6月1日金曜日

発明をビジネスにするには

「椅子」(著:井上昇先生)という装丁も美しい本があります。椅子のデザインから制作、意匠登録までのノウハウをわかりやすく明確に、各ステージごとに具体的に解説した名著。

この冒頭に書かれていることは、あたり前のことですが、とても大事な示唆を頂きます。

「椅子塾生50名の作品は、自分で製作した人もいますが、ほとんどの人は、プロの職人さんにお願いして製作しています。これには理由があり、デンマークを代表する家具デザイナー、故ハンス・ウエグナーさんを尋ねた際に、デンマーク一流の家具職人さんなしに、デザイナーであるウエグナーさんの名作はないと。デザイナーと家具職人。このコラボレーションがデンマークの椅子の評価が高い理由だと気がついたのです。」(多少、抜粋させて頂きました)

あたり前なのですが、各ステージで、それぞれのプロフェッショナルが力を合わせれば、最高のものづくりができます。

つまり、デザインするというステージでは、デザインの専門家が担当する。

デザインが完成して、製作をするステージでは、家具職人の専門家が担当する。

といったように、「各ステージでの専門家を尊重する」という考え方。


この精神は、発明をビジネス化する段階に必要なのではないかな、ということを提案したいです。

我々、知財の専門家を信用しろ!と、小さなことを言いたいのではありませんので、読み進めてくださいね。


発明者は、基本的には絶対的です。彼らが最初のアイデアの起点となり、基点となります。

ここで発明者を否定すると、アイデアの全てがなくなります。ですので、最初に発明者からのアイデアを聞く人は責任重大です(その役割が弁理士なのですが・・)。なので、それって世の中にあるよね、と簡単に否定してしまううと、デリケートな発明者ですと、二度と話してくれなくなり、起点は失われるのです。

このやり取りにおいて、重要なことがあります。発明者は必ずしもコミュニケーション能力が高いというわけでもなく、文章作成能力が高いわけでもありません。また、デザイン力も優れているとは限らないのです。

つまり、アイデアは素晴らしくても、それを人に伝える能力や、人に使ってもらえるようなデザイン力までもが長けているわけではないのです。

先日、画用紙にスケッチした発明家との打ち合わせがありました。確かにそのアイデアは、食品の現場を知っていることから生まれる画期的な食品トレイでした。

でも、そのスケッチが、あまりに、寂しい・・。

発明は、デザイン性を問いませんので、特許や実用新案を出すことはできます。

でも、ビジネス活用するモノづくりはそうはいきませんよね。

そこで、工業デザイナの方に、そのスケッチに基づいて、現実的に有りえる食品トレイをデザインして頂きました。
彼らは、現実に存在する、他の類似商品と比較し、素材やトレイの厚み、重さ、具体的に食品を載せた場合の形態、食品トレイを量産加工するための一体形成方法など、この新規の食品トレイに関わる考えられうるすべての事項を考慮して、デザインを図面に起こしました。

その図面を見るや・・。  素晴らしい・・。 よい発明ですね・・。と言ってしまうデザイン・・。


確かに、原型のスケッチと重要な構成としては、変わらないので、発明としては同じなのですが、現実的に工業製品として製造可能で、顧客が手にとりやすいデザインとなり、発明が現実的に、ものづくりの段階へと高まりました。

これは一例でして、工業デザイナと組めばデザインが良くなって、ビジネスがうまくいくよ、という単純なことを言いたいのではありません。

発明家の方は、なぜか、あまりに、自分の発明を自分だけのアイデアとして、抱え込んでしまって、そのアイデアを、そのアイデアの周辺に詳しい専門家の意見を聞けていないのではないか?ということを言いたいのです。

ですので、そのアイデアのデザイン化のみならず、どうやって売ったら良いのか、とか、どの顧客に聞けば良いのか、とか、試作版は誰に作ってもらったら良いのか・・とか、いろいろな助言者が必要です。これらを謙虚に、ひとつひとつ、専門家に教えて貰う必要があるのではないでしょうか。

当然、発明は新規性を担保するために、秘密にすることが重要です。しかし、発明者である、あなたは、皆さんに使ってもらって、便利だなと思ってもらうために、その発明をしたのではないですか?

ですので、特許を早めに出すなり、秘密保持契約をすることで、クローズの対策をしたら、それだけではなく、いろいろな専門家から意見を聞いて、アイデアを高めるということ、オープンなアプローチが大事なのではないでしょうか。

あなたの身近にいる専門家を信頼することが、発明をビジネスで成功させるキーポイントの一つかもしれません。

2012年5月8日火曜日

アマゾンの 1-click特許が日本でも成立か


アマゾン社のワンクリック特許(特願2010-021455)が、分割出願で特許査定が成立していることが判明しています。まだ、特許の設定登録は記録されていませんが、時期に特許料が納付されて設定登録されると思われます。

ワンクリック特許は、ビジネスモデル特許の代表的な特許とも呼ばれています。初めて商品を購入した時に顧客ユーザの個人情報を登録しますが、この際に、顧客のコンピュータにIDを記録したクッキーを送信して、次回以降はこのクッキーによって顧客を判別し、簡単な手続きでの決済を可能にする方法です。

日本では、ソニーが同じようなシステムをすでに出願していたため、この出願は拒絶されたと言われていました。

しかし、アマゾン社は、拒絶と判断されたタイミングで、分割出願を行うことで、特許の生き残りを図り、今回の成果に至っています。特許庁からの拒絶の判断でも諦めない同社の姿勢が、特許獲得に結びついたといえるでしょう。

2012年4月4日水曜日

成功するブレインストーミング

「何でもいいから、仕事で思いついたことをあげてくれる?」

「しーん・・・」静寂、静寂・・。

例えば、オフィスでブレインストーミングをするときに、こういう会話って、ありませんでしたか?

このような会話の後の結論は・・・、ブレストって、あまり、意味がないよね・・・・という結論ではないでしょうか。

これは、ブレスト自体がわるいのではなくて、ブレストのやり方がよくないのでは?と考えます。弊所は、事務所名が、SOCIDEA(ソシデア:SOCIAL+IDEAの造語)としているぐらい、集団思考に興味がありまして、経験上、気がついていることを提案させてください。

「ブレインストーミング」という言葉は、Wikipediaによると、「集団思考」と訳されています。すなわち、複数の人間で考える方法なわけです。

インターネットによる情報格差がなくなっている昨今では、個人のアイデアのみでは限界を迎えている傾向がありますよね。複数人のアイデアを足しあわせたり、融合する集団思考により、企業の製品やサービスのレベルを上げていくことは、競争に勝ち残る近道の1つといえるでしょう。そいういう意味で、企業の経営者はブレストをしたがるわけです。


「何でもいいから、仕事で思いついたことをあげてくれる?」と、上司が、司会となって進む、ブレスト。

さて、このブレストの参加者の心理を覗いてみましょう。参加者である部下の山田くんは、おそらくこう思うでしょう。

「何でもいいからって、漠然すぎて、思いつきにくいなあ。」

「ちょっと考えならあるけど、たぶん、発言しても、発想の乏しい奴って思われるし」

「何より、自分の仕事が増えるだけだから、何も言わないでおこう。」


そうですよね。ブレストに、ノルマはありませんから、下手な発言をして、自分の評判を落とす必要は無いですし、仕事を増やす必要もありませんから、発言はしない。参加者の心理としては、論理的に間違っていません。


このようなブレストのジレンマを打開するために、以下のような手を打ってみるのはいかがでしょうか。


1★最初の聞き方に気をつける

「中身がこぼれない自転車用のカップホルダーについて、提案してくれないか?」と聞くのと、

「自転車に乗る人が、こぼしたり、舌を火傷せずに、コーヒーを飲めるようにする方法って、あるかな?」

って、聞かれた場合、どちらが、あなたは、返答しやすいですかね?

前者よりも、後者の方が、具体的に自転車に乗りながら、コーヒーを置いたり、飲んだりする自分をイメージしやすくないですか?イメージしやすければ、そのときの状況がみえてくるので、カップがこうだったらいいなあ、とか、こうであって欲しいけど、こういう課題があるような・・という具体的な意見が出てきませんか?つまり、最初の質問者は、参加者にイメージしやすくする質問を検討しておく必要があります。

2★提案してもらうアイデアの範囲を狭めない

そして、前者の例であれば、参加者は、「カップホルダー」について考えが限定されてしまいます。一方、後者では、方法ってある?という提示なので、参加者は、「カップホルダー」以外の提案もすることが可能であり、提案するアイデアの幅を狭めません。

新しいカップホルダーの提案をしてもらうのに、提案する前のカップホルダーで考え始めてしまっては、そこから、イノベーションやインベンションは、生まれにくいですね。

3★上司が司会をしない

結局、自分に仕事が回ってくるから、思いついたことを、言わないようにしよう。これが、正直な参加者の本音だと思います。参加者は、単なるサラリーマンですから、同じ給料なら、仕事が少ないほうがよい・・という発想でしょう。となると、言わないほうが、得という、論理が働きます。そこで、アイデアを言った人が、実現する担当にはならないことを明言しましょう。そして、上司が司会をするのは、やめましょう。司会をやっていると、ブレスト後に、仕事が回ってくるのではという恐れが出てしまい、発言自体が、減ってしまいます。

また、上司の顔を見ながら、ちょっと自信がないアイデアも言い難いものです。

4★出てきたアイデアの分類をする

どうしても、ブレスト中に、話がずれてくる場合があります。しかも、話していること自体が気持ちよくなる参加者がいて、全く関係ない話になることもあります。ですので、出てきたキーワードが、前のアイデアとどのような関係なのか・・。アイデアが進んだ?後退した?関係ない?新しいバリエーション?上位概念?下位概念?という分類を、ブレスト中に行ってみましょう。そして・・

5★分類したアイデアを位置的に配置する

分類したアイデアを記載したキーワードを、所定の位置に置きましょう。そして、関連のあるキーワードは、近くにおいたり、関連がなければ、遠くに置きましょう。そうすると、集団から出たアイデアの関係や所在を、見える化することにより、出てきたアイデア全般を明確にして、議論の焦点を、参加者全員に把握させて、さらなる、意見を集めましょう。これにより、話が難しくなってきたからいいや、とか、なんかわからなくなってきたら言うのやめようとかいう、参加者の考え方をできるだけ排除します。

また、人の記憶は、位置と密接な関係がありますので、位置により、前の議論を呼びさますことが可能にもなります。


いかがでしょう。

あなたの会社のブレストを、少し見直してみるきっかけになれば、大変嬉しく思います。


無印良品で、壁掛けのCDを見たことがりませんか?このようなアイデア商品を生み出している、IDEOという会社のゼネラル・マネージャーが、上記のブレストのルールの基礎を提案しています。少し、私の方で、このルールを発展してみました。さらに詳しい内容は、以下の本を参照ください。お薦め本です。「The Art of Innovation 発想する会社 著:トム・ケリー (早川書房)」)

2012年3月11日日曜日

顧客満足度を超えた視点とは

今の商品開発には、なにより顧客満足度が重要です。

マーケティングをしてから、商品開発をしないと、顧客のニーズが確かめられません。


このように顧客目線が重要というのは、現在のビジネスでは、誰も疑わない鉄則の一つと言えるでしょう。

つまり、企業論理ではなく、サービスや商品の利用者である顧客の目線で、商品やサービスの質を検討することは、ビジネスの成功において大事な視点です。

しかし、この視点だけでよいのかな?という疑問を持ったことはありませんか?

私は、特許という、一般人には、馴染みがないサービスを提供しているために、顧客満足だけでは、なにか視点が足りないのではないかと考えていました。


これに対する答えを、最近、本で見つけましたので、ご紹介させてください。

ホテルで、ミートローフをお客に出したときに、ウェイターが、「お味は?」と客に聞いた時に、「うん、いいよ」と顧客は答えるでしょう。しかし、普通、人は、好き好んで面白くない一日を過ごそうとする人なんていないのだから、ちょっとぐらい美味しくなくても、まあ、問題ないと答えるもので、それが人間の本性でしょう。

つまり、ホテルで「上品な受け答え」をしたさいの情報は、何の価値もなく、意味もない。つまり、客たちは、食べるのが好きかもしれないが、料理評論家ではないし、ミートローフを評価する責任者でもないのです。

ビジネスの世界でも、顧客は語彙が足りないか、物を見る目を持たないせいで、何が悪いのか、説明できないかもしれない。

このような場合は、企業は、顧客に、商品やサービスについて、たずねるべきではないのだ。


ここまでが本の内容なのですが、自分にとっては、なんだか、大事なことに気が付かせてくれたように思いました。私は、特許や知的財産のサービスを、地方である宮崎で提供しているのですが、残念ながら、宮崎は、知財意識が低く、知財に対するリテラシが高いとは言いがたいです。そのため、自分のサービスは、普通に努力して、仕事をしていれば、お客様にある程度の満足をしていただくことができます。

しかし、お客様が特許のサービスを知らないから、私が至らない点でもやり過ごせてしまうことがあるとも言えますし、宮崎の人は人柄が良いので、サービスがよくわからないけど、良いことにしてもらっているという面もあるかもしれません。例えば、都内の大手企業の知的財産部であれば、細かく指摘してくれる点も、宮崎の個人のお客さまであれば、指摘することはできません。そうなると、私のサービスレベルは、どんどん下がる可能性も否めません。

顧客が知らないからこそ、自分自身で、一番の商品・サービスを追求し続けよう。

これが、原点になくてはいけないのですよね。当たり前かもしれないのですが。

サービスレベルが低くても通用するから、地方で甘んじているのではなく、自分自身が強く自分の商品・サービスの質を追求できるから、顧客からのチェックが甘い地方でも、責任をもって、業務を行える。

そんなふうに、地方の専門家はあるべきなんだと自覚しました。

(書籍の名前は、The Art of Innovation 発想する会社:著トム・ケリー 早川書房)

2012年2月10日金曜日

製品を販売して、顧客の反響を見てから特許を取ることができるようになります。

何よりも早く、特許出願しなくてはダメなんです!

なぜなら、特許要件である新規性が失われてしまいますから。


みなさんも、このような説明を、特許に関する説明で受けてきたのではないかと思います。ですから、製品が売れるのか、売れないのか判断がつかないまま、ひとまず、特許出願することを薦められていたと思います。

特許出願は、中小企業の開発費用としては、高額です。最近の法改正で、審査請求料が、若干、減額されましたが、登録まで合計50万円近くの費用がかかることは否めません。

ですので、結果的に、特許出願を行うことは、コスト的に躊躇されることも多いと思います。例えば、製品を販売してみて、顧客の反応が良く、これは、売れるな、と感じられてから、特許を出願したいというのも自然な考え方です。販売が好調ですと、特許出願費用も、売上額の一部から捻出することができますし、なにより、同じような製品を他社に模倣されて、販売されては困ります。

ですので、この販売見込みが立った時点で、特許出願を行うことは、ビジネスの流れからは、自然でした。

しかし、この“販売”を、一度してしまうと、製品は新規性を喪失してしまい、特許を受けることができませんでした。新規性喪失の例外という対応方法があるのですが、残念ながら製品の販売行為が、例外行為として認められておりませんでした。

これが、平成23年度の改正で、販売も、新規性が喪失した例外的な扱いとして、認められるようになりました。今年の4月1日より、この制度が適用されますので、企業においても、販売実績を考慮して、特許出願を行うことが可能となりました。


ただし、販売してから6ヶ月以内に、特許出願を行わなくてはなりません。特許事務所に、特許の書類作成を依頼すると、1ヶ月程度かかりますので、事実上、5ヶ月程度で、判断する必要があるでしょう。

ちょっとした法改正ですが、出願人には大きなメリットになります。制度をうまく利用して、適切で有効な特許の取得を目指しましょう!

2012年1月12日木曜日

売上げに勝る、こだわり

「残念ながら、そういう商品の提供のしかただと、風力発電の提供メーカとして責任が持てなくなるんです。」

宮崎は、エネルギー関連の産業が盛んで、ソーラー発電の業者や大学での研究も活発なようですが、風力発電などの他のクリーンエネルギー関連の業者も、がんばっています。

先日、出会った宮崎の風力発電メーカーは、40万円程度で家庭用に1台購入できるような、小型の風力発電機を全国的に販売しています。僕も驚いたのですが、この会社の風車は、なんと風速1メートルでも、ブレードと呼ばれる風車が回転するんです。当然、発電効率が高くなります。風力発電機の風車は、常時、回っていないと、その風車の性能が悪いと判断されてしまうようです。ですので、少しでも回らせるために、バッテリーで回転させていることもあるとか・・(本末転倒?)。

この会社で、この風力発電機を、たくさん販売して、会社の売上を上げるには、どうしたらよいか・・という話になりました。

安易に考えた私は、楽天市場で販売されている輸入物の風力発電機や、Facebookで人気の海外の風力発電機を彼らに知らせてみました。結局、こういったITの営業が、販売促進の秘訣・・みたいな・・。折しも、東電の電気料金値上げもあってか、楽天市場では一日に50代以上も売れている日がある。こういうふうに、うまく宣伝すれば、いっぱい売れると思うのですが・・、と私。

「確かに、台数をさばくという意味では、効果的だと思います。ただ、風力発電は、単に、商品として提供すればよいだけではなくて、設置場所毎にカスタマイズして、メンテナンスする必要があるんです」

「環境問題を真剣に考えて、風力発電を高額で導入された方に恥ずかしく無いように、せっかく購入した風力発電を有効に活用してもらいたいんです。確かに、短期的には、台数がさばけるかもしれませんが、長期的に、回っていない風車になったり、ブレードが外れて事故になったりすれば、風力発電をだれも見向きもしなくなります。我々は、風力発電機を社会的に信用させる役割も負っていますから」

確かに、その海外メーカの風力発電機は、設置まではするが、場所に応じて微調整までしているとは考え難い。むしろ楽天の販売網を利用して、売り切りのスタイルを貫いているように感じられる。当然、購入後のメンテナンスも謎が残る。

「このタイプの風力発電機は、うちよりも定価が安いのですが、発電効率が落ちるのと、騒音の問題や、暴風の時の対策が充分でない場合があります。風力発電は、ポンと買って、ポンと設置して、はい、OK!というのは、充分ではなく、設置する場所の年間の平均風速、平均風量、最大風速や、台風の頻度など、その設置場所にカスタマイズする必要があります。」

なるほど。風力エネルギーを愛していて、ものづくりをしていれば、先のことを考慮せずに、数をさばくことが一番大事だ!という論理にはならないですよね。時間がかかっても、一つ一つの風力発電機を、じっくり使ってもらえるように、カスタマイズして、微調整後に納品して、その後、メンテナンスする。大量に販売できなくても、、一つ一つに愛情を込めて、商品を販売する。そんなメーカから、我々もモノを買いたいですよね。

売上げに勝る、こだわりは、その商品に対する愛情なのでしょう。そのこだわりは、数字には出てきにくいですが、品質の良い、日本のものづくりを支えている最も大事な柱といえるでしょう。それに何より、短期では売上に変えられませんが、長期的にみたら、売上に還元されるはず。

このこだわりがあるかぎり、日本の中小企業は負けません。

頑張れ、日本の、ものづくり企業!