2012年6月19日火曜日

特許を出してみようか、と思ったら


「この製品は、アイデアあふれる製品なので、特許とったほうがいいと思うんですけど、特許をとるには、どういうステップを踏めば良いのですかね。いきなり、特許事務所に連絡すると、いくらとられるか、わからないし・・。」

こういう質問をされることがよくあります。

確かに、自分の発明に自信がない場合(自信がない場合のほうがむしろ普通かもしれません)に、いきなり特許事務所に連絡するのは、ちょっと敷居が高い・・、というのもわかります。

そこで、今日のブログは、特許をとってみようと思い、誰かに相談したいと思った時に、どうやって、特許出願までを行えばよいのか、留意すべきステップを書いてみようかと思います。


1.発明を相談できる専門家は、弁理士か、各県の知財総合支援窓口のアドバイザー

発明について、「これは、特許が取れる」ですとか、「特許をとったほうがよい」とか、そういった話を聞けるのは、弁理士(もしくは、特許事務所の所員の方)か、各県に設けられている知財総合支援窓口にいらっしゃる知財の専門家のどちらかが一般的です。弁護士、行政書士、経営コンサルタント等の先生は、日々の業務では発明を取り扱っていませんし、特許庁への手続きは弁理士しかできない業務ですので、これらの先生からは、あまりアドバイスをいただけないことが多いようです。

それでは、弁理士と知財総合支援窓口とでは、どちらにいけば良いのでしょうか?

弁理士に会うには、特許事務所で会うことになります。ですので、時間単位で相談料が発生する場合があります。しかし、最近では、弁理士業界も業界不振で、最初の相談は無料というところも多いようです。

一方、知財総合支援窓口は、都道府県や発明協会が実質的な運用主体であることが多く、無料の窓口なので、相談料について悩む必要はありません。しかし、弁理士ではないので、足を何回か運ぶ必要があります。また、知財総合支援窓口は、国が積極的に行なっていることから、中小企業の発明に熱心であり、個人発明家は、ビジネスに結びつかない限り、支援の対象になりにくい傾向があります。知財総合支援窓口には、各県の弁理士が登録されており、発明に特許性があると判断できる場合は、彼らを紹介してくれます。

2.特許を最終的に取得するまでのコストを確認しよう

特許出願費用以外にも、審査請求費用、特許料、拒絶の対応のために費用など、結構、その他の費用がかかります。最後までで、総額がいくらかかるのか計算して、おおよそのあたりをつけておきましょう。

3.県や国の助成金を利用できないか制度を確認しよう

中小企業の場合は、多くの県で、特許出願費用の半額を補助(上限はありますが)してくれます。これを利用しない手はないですよね。

ここまでは、弁理士か知財総合支援窓口に聞きましょう。

次からは自分で行動しましょう!

4.弁理士に明細書を書いてもらうか、自分で書くのか判断しよう

特許明細書って、見たことありますかね?特許庁電子図書館(IPDL)というところで見ればわかりますが、特許の明細書は、一般の人では、わかりにくい文章であることが多いです。また、発明は、抽象的な概念なので、文章に表現することは、結構、難しいです。可能であれば、お金を貯めて、専門家である弁理士に依頼することをお薦めします。

5.そして、弁理士に依頼する前になにをすればよいか

できれば、発明について、自分なりに文章を作りましょう。図面と文章で、客観的に発明が明らかになるような書類を頑張って作成しましょう。口頭のみですと、齟齬が出やすいとともに、発明者にとって重要な微妙なニュアンスが伝わらないことが多いです。聞き手の弁理士先生が優秀ですと、口頭でも詳細まで反映していただけますが、他人に頼りすぎず、自己責任でしっかり、文章を作る姿勢が大事に思います。

このときに重要なのが、発明は既に完成しているのか?という疑問を自分に投げかけましょう。つまり、文章を作成しながら、新しいアイデアが浮かんで来ませんか?

それですと、まだ発明は進歩する可能性があり、完成していないのです。アイデアをもっと進化させるのは、とても良いことだと思います。この文章を作っていて、進歩出来れば、限りなく前に進みましょう。そして、ああ、もうこの発明は、ここまで完成した!と思ったら、完成したところまでを弁理士に相談しましょう。さすがに、執筆を依頼した後に、こっちの方が良いアイデアだからといって依頼内容を変更すると、せっかく作成した文書が無駄になるので、弁理士先生だって悲しくなります。

6.弁理士に明細書を作ってもらったらどうするか?

チェックしましょう。「え、でも、どうやってチェックするの」って?「専門家が書いたのだから、見る必要がない」?
まず、図面をみましょう。あなたのイメージ通りですか?視覚的に同じものだと認識できますか?そのイメージをもって、明細書内の【図面の簡単な説明】という項目から下の文章を図面ごとに読みましょう。がんばって!

そして、弁理士に、こう質問しましょう。

「先生、この明細書の中の、どの技術を他人が使うと、僕は文句を言えるのですか?図面で指さしていただけますか?」

そう聞くと、きっと、先生は、あなたがこの特許で獲得できる権利範囲について、図面を用いて、詳細に教えてくれるでしょう。

7.そして、出願! by 特許事務所

お疲れ様でした。

こんな流れが、お客様にとっても、弁理士にとっても、スムースなのではないかと思います。

ごのチェックリストを是非とも活用ください!

(写真は、お気に入りのScienceトランプです。William Haleのロケットの特許が記載されています。詳細を知りたい方は、事務所に置いてあるので、見に来てくださいね!)

2012年6月1日金曜日

発明をビジネスにするには

「椅子」(著:井上昇先生)という装丁も美しい本があります。椅子のデザインから制作、意匠登録までのノウハウをわかりやすく明確に、各ステージごとに具体的に解説した名著。

この冒頭に書かれていることは、あたり前のことですが、とても大事な示唆を頂きます。

「椅子塾生50名の作品は、自分で製作した人もいますが、ほとんどの人は、プロの職人さんにお願いして製作しています。これには理由があり、デンマークを代表する家具デザイナー、故ハンス・ウエグナーさんを尋ねた際に、デンマーク一流の家具職人さんなしに、デザイナーであるウエグナーさんの名作はないと。デザイナーと家具職人。このコラボレーションがデンマークの椅子の評価が高い理由だと気がついたのです。」(多少、抜粋させて頂きました)

あたり前なのですが、各ステージで、それぞれのプロフェッショナルが力を合わせれば、最高のものづくりができます。

つまり、デザインするというステージでは、デザインの専門家が担当する。

デザインが完成して、製作をするステージでは、家具職人の専門家が担当する。

といったように、「各ステージでの専門家を尊重する」という考え方。


この精神は、発明をビジネス化する段階に必要なのではないかな、ということを提案したいです。

我々、知財の専門家を信用しろ!と、小さなことを言いたいのではありませんので、読み進めてくださいね。


発明者は、基本的には絶対的です。彼らが最初のアイデアの起点となり、基点となります。

ここで発明者を否定すると、アイデアの全てがなくなります。ですので、最初に発明者からのアイデアを聞く人は責任重大です(その役割が弁理士なのですが・・)。なので、それって世の中にあるよね、と簡単に否定してしまううと、デリケートな発明者ですと、二度と話してくれなくなり、起点は失われるのです。

このやり取りにおいて、重要なことがあります。発明者は必ずしもコミュニケーション能力が高いというわけでもなく、文章作成能力が高いわけでもありません。また、デザイン力も優れているとは限らないのです。

つまり、アイデアは素晴らしくても、それを人に伝える能力や、人に使ってもらえるようなデザイン力までもが長けているわけではないのです。

先日、画用紙にスケッチした発明家との打ち合わせがありました。確かにそのアイデアは、食品の現場を知っていることから生まれる画期的な食品トレイでした。

でも、そのスケッチが、あまりに、寂しい・・。

発明は、デザイン性を問いませんので、特許や実用新案を出すことはできます。

でも、ビジネス活用するモノづくりはそうはいきませんよね。

そこで、工業デザイナの方に、そのスケッチに基づいて、現実的に有りえる食品トレイをデザインして頂きました。
彼らは、現実に存在する、他の類似商品と比較し、素材やトレイの厚み、重さ、具体的に食品を載せた場合の形態、食品トレイを量産加工するための一体形成方法など、この新規の食品トレイに関わる考えられうるすべての事項を考慮して、デザインを図面に起こしました。

その図面を見るや・・。  素晴らしい・・。 よい発明ですね・・。と言ってしまうデザイン・・。


確かに、原型のスケッチと重要な構成としては、変わらないので、発明としては同じなのですが、現実的に工業製品として製造可能で、顧客が手にとりやすいデザインとなり、発明が現実的に、ものづくりの段階へと高まりました。

これは一例でして、工業デザイナと組めばデザインが良くなって、ビジネスがうまくいくよ、という単純なことを言いたいのではありません。

発明家の方は、なぜか、あまりに、自分の発明を自分だけのアイデアとして、抱え込んでしまって、そのアイデアを、そのアイデアの周辺に詳しい専門家の意見を聞けていないのではないか?ということを言いたいのです。

ですので、そのアイデアのデザイン化のみならず、どうやって売ったら良いのか、とか、どの顧客に聞けば良いのか、とか、試作版は誰に作ってもらったら良いのか・・とか、いろいろな助言者が必要です。これらを謙虚に、ひとつひとつ、専門家に教えて貰う必要があるのではないでしょうか。

当然、発明は新規性を担保するために、秘密にすることが重要です。しかし、発明者である、あなたは、皆さんに使ってもらって、便利だなと思ってもらうために、その発明をしたのではないですか?

ですので、特許を早めに出すなり、秘密保持契約をすることで、クローズの対策をしたら、それだけではなく、いろいろな専門家から意見を聞いて、アイデアを高めるということ、オープンなアプローチが大事なのではないでしょうか。

あなたの身近にいる専門家を信頼することが、発明をビジネスで成功させるキーポイントの一つかもしれません。