2012年8月21日火曜日

プロトタイプ制作はイノベーションへの近道(平成23年特許法改正との関連にて)

Miyazaki Roboticsでは、子供たちが一生懸命創作します

「アイデアの良さを伝えるために何かを作るのではなく、それがどんなものであるべきかを考えるために何かを作るのです。」

カルフォルニア州に本社を置く、デザイン会社「IDEO」のCEOであるTim Brownは、迅速なプロトタイプ制作を行なって、デザイン思考でソリューションを提供し、それが、イノベーションにつながると言われている。

「このアプローチは通常の企業では、なかなかうまくいきません。誰も製作途中のプロトタイプをCEOに見せようとはしないからです。つまり、製作途中で批判されたくないからです。」
「でも、本来、人は、アイデアの良さを伝えるために何かを作るのではなく、それがどんなものであるべきかを考えるために何かを作るべきです。」

そういえば、コストを理由にして、手を動かすことを、やめていないだろうか?
”アイデア”や”知”ということにこだわっている弊所のような事務所には、耳が痛い話。

先日、80歳近くの宮崎の発明家にビジネスにとって大事な構成要素を教えていただいた。

「ビジネスには、まずは、IDEAそれを形にするHandwork。それを伝えに行く、Footwrok。会った人から生まれるNetwork。作ったNetworkを、仲間にしていくTeamwork。これらが、あわさって、初めてビジネスが成功するのだよ。」

確かに、アイデアを形にして、共有して、仲間を作って広げていく。シンプルに考えるとその過程がないと、アイデアは成功しない。共有するためには、アイデアを形にする必要がある。そのためには、Handwork(手を動かすこと)が重要ということ。

そして、モノをつくってみて、それから、学んで、さらに、アイデアを掘り下げて行く必要がある。単に、プロトタイプを作るだけで終わってしまっては、なんのために作るのか、目的を見失う。つまり、プロトタイプを作ってみて、「ここの部分は、こうでなくちゃいけないな」とか、「ここの部材は、こうでなくちゃダメだ」とか、いろいろ改良を加えることで、さらに、アイデアを掘り下げることができる。

スタンフォード大学の学生であるフェロス・アブーカアディジエは、即時性のあるYoutubeを作って、第2のスティーブ・ジョブズと呼ばれている。彼は、こう言う。

「アイデアなんてどこにでも転がっている。肝心なのはそれを実行することだよ。」

彼のようなプログラマは、最初にプロトタイプを作ってみる。そして、最も厳しいユーザである自分が使ってみて、あれが駄目だ、これが駄目だ、と学ぶ。 彼自身は、様々な他のサービスを知っているから、多くの駄目出し、ができて、自分自身で修正する。そして、彼が満足するものに完成する。

手を動かして、初めてアイデアが具現化して、さらに、良いものへと昇華して、イノベーションへ・・・といえばよいだろうか。このように最初のアイデアを基点として、そこからベクトルのように、改良されたアイデアを、基点からの延長線として伸ばしていく。このベクトルは、特許法上は、発明の単一性と呼ばれており、この延長線が長いと、筆者の経験上、特許成立率が高くなる。

さて、このようなアイデアの実現方法が一般的に認知されてくることで、平成23年(平成24年4月1日施行)に特許法30条が改正された。

それは、製品を販売したり、製品を一般に公開することで、製品が新規であることを失ってしまった(新規性喪失)後でも、所定の手続き(新規性喪失の例外の手続き)を行い、条件をクリアすれば、特許を取得することが可能となるという内容である。

改正前でも、雑誌や、インターネット、特許庁長官等が指定する所定の学会、展示会等で製品の公開をしても、新規性喪失の例外の適用があったが、法改正により、製品の販売や、テレビでの放送による公開、展示会など網羅的な公開事項もこの新規性喪失の例外の対象となった。

少し脱線するが、この改正は、宮崎などの地方にとっては、とても大きな意味がある。現実的に、特許庁長官等が指定する展示会は、東京、大阪、福岡等の都市部の展示会に限定されていたのが現実であった。そのため、宮崎県の市町村が行う地方の展示会が、この特許庁長官等が指定になっていることが少なく、特許獲得を断念することも多い。このように、都市と地方間において知財保護の格差があることは否めなかった。

「新製品を作ったら、何よりも早く、特許出願しなくてはダメなんです!なぜなら、特許要件である新規性が失われてしまいますから。」

弁理士は、このような説明をするのが一般的である。したがって、製品が売れるのか、売れないのか、判断がつかないまま、ひとまず、特許出願することを勧められていた。

特許出願は、中小企業の開発費用としては、高額である。最近の法改正で、審査請求料が、若干、減額されたが、登録まで合計50万円近くの費用がかかることは否めない。

したがって、結果的に、特許出願を行うことは、コスト的に躊躇されることも多い。例えば、製品を販売してみて、顧客の反応が良く、これは、売れるな、と感じられてから、特許を出願したいというのも自然な考え方である。

販売が好調であると、特許出願費用も、売上額の一部から捻出することができるし、なにより、同じような製品を他社に模倣されて、販売されては困る。したがって、この販売見込みが立った時点で、特許出願を行うことは、ビジネスの流れからは、自然である。

これが、平成23年度の改正で、販売も、新規性が喪失した例外的な扱いとして、認められた。平成24年4月1日より、この制度が適用されているので、企業においても、販売実績を考慮して、特許出願を行うことが可能となった。

ただし、販売してから6ヶ月以内に、特許出願を行わなくてはならない。特許事務所に、特許の書類作成を依頼すると、1ヶ月程度かかるので、事実上、5ヶ月程度で、判断する必要がある。

一般に、製品を販売して、他人に公開するという行為は、アイデアの創作者にとっては、製品の成否が問われるため緊張を迎える場面である。したがって、販売前にさらに、アイデアが高まることもある。それと同時に、この販売行為の後に、創作者は、その製品に関する様々な情報を消費者等の関係者から取得する。したがって、この販売行為の前に、特許を出願してしまうと、販売後に得た情報に基づいて、改良したアイデアの特許を出したくなるだろう。

もちろん、最初のアイデアで特許を出願しておいて、改良版ができてから、2件目の特許を出すこともできる。しかし、今回の特許法改正により、他の選択肢として、販売後に新規性喪失の例外規定を適用して、改良された製品で、1件の特許出願をまとめて行うこともできるようになった。

さらに、アイデアが高まった改良版であれば、最初のアイデアを基点として、拡張されたアイデアを含む発明となっているので、特許が拒絶された場合には、その改良点に限定して補正して、特許を取得することもできるため、特許が成立する確率も高まり、効率的な特許出願となると提案したい。

最初に創作したアイデアを基点として、プロトタイプを制作し、さらにアイデアを高める。そして、高めたアイデアでビジネスを成功し、かつ、高めたアイデアをしっかり特許で保護する。こんなアイデア活用のロードマップが、クリエイティブな企業活動に欠かせないのではないか。

※今回の法改正の注意事項としては、特許を出願せずに製品を販売して、知らない他人がこの販売された製品を見て、技術を盗み、元々の創作者よりも早く特許出願をしてしまった場合は、後から出した創作者の特許が認められない場合がある(特許法39条の適用で冒認出願と判明できない場合)。したがって、最初の販売は、信頼出来る限られた人にしたほうがよいと言わざるを得ない。コストが許されるのであれば、基点となる最初のアイデアで特許出願し、後の改良アイデアについて、国内優先権主張出願(41条)をするのが最も確実であることは、法改正後も同じである。