2014年3月30日日曜日

中小企業も意識したい「オープン&クローズ戦略」

「シャープやソニーの敗退は、ものづくりのアイデアで敗戦しているのではなく、そのアイデアをオープンにしたり、クローズにする”知”の取り扱いのマネジメント、いわば、知的財産マネジメントの敗戦だったのではないか。」


小川紘一先生著の「オープン&クローズ戦略」では、日本のこれらかのものづくりに必要な要素をこう分析しています。

ここで、知的財産とは、特許や意匠、実用新案など、いわゆる、知的財産権に限定されないので、うちは、特許とか持っていないし・・という経営者も、もう少しおつきあいください。

ここでの知的財産とは、価値ある製品・サービスのための情報と捉えると、わかりやすいように思います。

平たく言うと、あなたの企業にとって、価値のある”知”のどこまでを、他社にオープンにして、どこまでをクローズにする・・とったことを考えいますか?という問題提起をしています。

ツイッターなどの情報伝達技術の発達や、グローバル人材の活発化により、企業の”知”が他社に知られる速度は、今や格段に早くなりました。この速度が遅くなることは考えにくい。

確かに、ツイッターやSNSのお陰で、我々が人に知ってもらいたい情報、すなわち、広告宣伝やPR等、オープンにしたい情報を多くの人に知ってもらうための利便性は、格段に増しました。また、大企業を退職されて、中小企業へ就職したシニア世代のお陰で、中小企業のオートメーション化が進んだり、新商品開発の意識が高まっている中小企業も、筆者は目の当たりにしてきました。

しかし、逆の立場になると、本当に守りたい”知”も、非常に短期間で、外部に知られてしまう可能性は、常に存在するということです。

したがって、我々は、企業内の”知”について、オープンにする情報と、クローズにする情報を意識的に区別する企業の知の戦略=知的財産マネジメントが必要ではないか、ということです。

有名な話ですが、インテルの場合で説明します。

インテルは、御存知の通り、「インテル入ってる」というCMで、多くのパソコンのCPUを製造・販売する会社です。かつて、インテルは、単にパソコンメーカなどから要求のあった半導体を受注で作るのみの、言わば、受け身の会社でしたが、顧客であるパソコンメーカの未来を創造して、それに適したCPUを提案するという提案型のビジネスで、部品であるCPUの売上を上げたと言われます。

しかし、インテルのマネジメントはこれで終わりません。未来の提案でパソコンメーカである顧客の関心を誘うことで、受注が増えると、当然、CPUの供給を間に合わせる必要が生じます。

そこで、インテルは、オープン&クローズ戦略による”知”のマネジメントで、この問題を解決しました。

インテルのコア技術は、CPUに関する技術です。そして、そのCPUの入出力に関するマザーボード等のインターフェース部分も当然、彼らの技術範疇になります。彼らは、このCPUとそのインターフェースに関する特許を、それぞれ取得しました。

そして、マザーボード等のインターフェース部分を台湾などのメーカに特許をライセンス(若干、安めにライセンスしたのではないかと考えられます)し、その技術を、契約という形で制限しながらも、少しだけ”知”をオープンにしました。台湾メーカによる参入のいわばイノベーションの誘発です。

しかし、CPUコア技術に関しては、特許をライセンスしません。ここは、死守すべき技術として、他社の製造・販売を許すことはなく、自社の製造を向上させるべく、設備投資をしました。

そうすると、どういう事が起きるかといいますと、台湾メーカが大量の安価なマザーボードを供給し、日本の富士通やNECなどが大量のパソコンを製造する。しかし、マザーボードはインテルのCPU用ですから、CPUはインテルを入れないと、パソコンは動きません。ですので、富士通やNECなどのパソコンメーカは、インテルのCPUが多少、高価であっても、購入しなくてはいけなくなります。

こうやって、オープン化による台湾メーカの参入を促し、市場に多くのインテル用のマザーボードを供給させる一方で、そのマザーボードに必ず供給されるCPUはクローズですから、価格競争となることもなく、高い値段で多くのCPUを市場に導入させる・・ということを、成し遂げました。

付随的な結果として、パソコンメーカは、インテルの提案に頼ることとなり、パソコンの未来を自社で考えられなくなったのでは・・と考えられます。

このインテルの例から、2つほど、中小企業は、学べるかと思います。

1 部品メーカであっても、最終製品の未来を提案するほどの提案力をつける。

そして、下記が特に重要なのですが、

2 貴社がクローズにすべきコア技術(CPUにあたる部分)が何で、貴社がオープンにして他社への協力を得るべき技術(マザーボードにあたる部分)が何かについて明確化し、ビジネスを仕掛ける。

2こそが、知的財産マネジメントであり、それは、1のような従来のマーケティング方法とは異なり、自らの価値のある”知”を市場とどのような接点を持つか事前に考えて、ビジネスを仕掛ける戦略なのです。これは、地方であっても、零細企業であってもできることですし、また、特別な特許技術がなくても、考えられることです。

例えば、先日、宮崎県の都農町で、「都農トマト鍋」というレトルトのトマトスープを販売している団体(都農もりあげ隊)の代表の方とお会いしました。この方は、「トマト鍋という言葉は、都農町全体で、はやらせたい」とおっしゃっていました。そこで、商標としては、「都農トマト鍋」(文字のみであれば地域団体商標になります)では申請せずに、団体の名前である「都農もりあげ隊」で申請しました。

小さいことかもしれませんが、この例では、「都農トマト鍋」を都農地方のトマト農家全体で盛り上げる・・といったオープン戦略(イノベーションの誘発)と、その商品の出所を表す「都農もりあげ隊」は、商標で守りたいといったクローズ戦略を意識しています。このような戦略は、小さいようで、効果としては大きいです。例えば、「都農トマト鍋」の商標を取ってしまったら(*)、都農地域の「トマト鍋」の他社の参入を許さないので、「トマト鍋」自体が、この地域全体で流行らなくなってしまう可能性があります。しかし、ここはオープンとすることで、地域全体での宣伝効果が高まる(それのみではなく、行政に協力してもらいやすい)といったメリットがうまれるのです。

まずは、自社のコア技術って、なんだろう・・他社からの強みって、なんだろう・・そんなことに意識を向けてみませんか?その方法としては、SWOT分析などが有名ですが、知財まで見通すという意味では、知的資産経営報告書を作成するという方法が一般的です。また、次回に。


(*)「都農トマト鍋」の文字そのものは、地名+普通名称の組み合わせで商標の登録は困難とも言えますが、よくあるケースとして、ロゴなどと組み合わせて権利化する場合です。ロゴも権利に含まれますが、一般には、文字で権利が取られたと誤解されてしまうことが多く、結果として、他社の参入が促されないことも多くいです。