2014年12月21日日曜日

マーケットインとプロダクトアウト(マーケと知財のイノベーション③)

「自分たちが良いと思う商品を売れば市場を獲得できる」

この考え方は、商品ありきで市場を考える「プロダクトアウト」の考え方と言われている。

アップルのイノベーション戦略は、このプロダクトアウト型ともいわれており、最近の経営者は、「顧客が望むものを作れば売れる」という「マーケットイン」の話は、もう時代遅れではと考える場合もあるようだ。果たしてそのような二元論で売れる商品の議論ができるのであろうか。
 
 日本には昔から優れた商品を創り出す伝統工芸が多く存在していた。例えば、伊万里焼の白磁は、1659年(万治2年)頃からヨーロッパや中東に輸出されはじめ、ドイツのマイセン(ヨーロッパ初の白磁)が登場するまで、ヨーロッパに輸出されていた。この成功が佐賀藩を潤おし、さらに、1878年パリ万国博覧会に日本の美術品(浮世絵・工芸品等)が出典されジャポニズムがヨーロッパで花開いた。
 すなわち、江戸時代から日本では伝統的によい作品・製品を創り出す技術力や概念があったのである。
そして、時代は移り、第二次世界大戦終了後、物が無い時代の日本において、当然、物質不足であるから、「モノを作れば売れる」「良いモノを作れば売れる」といった考え方が主流をなした。この考え方(プロダクトアウト)が会社において現在でも継承され、商売の基本的な考え方になっている。

しかし、時代は進み、1970年代中ごろより、市場の成熟化・飽和化や技術の高度化を迎え、いたるところで物質が供給過剰に陥り「良い商品を作ればよい」という考え方に、ほころびが見られ始めた。売上を確保したいにも拘らず、売れないという現実が企業に突き付けられるのである。企業は、このギャプを埋めるべき「顧客視点や顧客ニーズ」という考え方を導入し始めた。この考え方が「マーケットイン」である。

それでは、現在「プロダクトアウト」の考え方はいらないのかと問われれば、新商品開発には、「シーズ開発」(技術力や研究開発力はビジネスの種)として必要である。技術力や研究開発力によって、今まで市場に存在しなかった商品を開発し大ヒットした例は沢山ある。この技術力のつけた「シーズ開発」に加えて、さらに、「ニーズ開発」することによって、今まで市場に存在しなかった商品を開発し、大ヒットすることができるのである。

本来のマーケティングとは何か。それは、「シーズ開発」+「ニーズ開発」ということである。「プロダクトアウト」、「マーケットイン」という2者択一で考えるのではなく、どちらもあって始めて、成功するということである。

商売で成功したいならば、まずは、未だに満たされていない消費者ニーズである未充足ニーズの開発を始め、次に、そこから出てくる未充足の消費者ニーズ(夢・希望・期待・願望等々)を、技術的に解決するためのシーズ開発に活かすことが求められるのである。

物質で満ち足りている今日では、本当の未充足ニーズが見つかれた場合、それは、要求水準が非常に高い場合が多い。したがって、企業は、商品の技術レベルを上げるようたゆまぬ努力(シーズ開発)を行う必要があるのである。

宮崎日日新聞 平成26年4月17日 経済欄 掲載コラム 

2014年11月16日日曜日

商売の自由と知的財産


発明を創造したら特許や実用新案を取得することができる。しかし、発明は必ずしも売れる商品になるとは限らない。すなわち、発明を創造することと、市場を創造することは異なる”知”が必要であるからだ。

発明の創造性は、上述のように、特許や実用新案で保護できるが、市場の創造性は、保護されにくい。それは、商売の自由という異なる価値観が働くからである。

過度の知的財産保護は、商売の自由と繁栄の阻害になるともいわれている。例えば、ハリウッドの創始者達(ユニバーサルやパラマウント)は、エジソンの特許を回避するために西海岸まで逃れ(当時、西海岸まで特許が及ばなかったと言われている)、その映画技術に基づいた映画産業を振興させたとも言われている。

市場に対する“知”を権利として保護したいと考えて生まれたのが、ビジネスモデル特許という保護方法である。ビジネスモデル特許は、2002年あたりに一大ブームになり、住友銀行のパーフェクト特許などが話題となった。

現在は、ポスト・ビジネスモデル特許の時代になったと言えるが、ビジネスモデル特許はソフトウェア特許という形で事実上、存在している。すなわち、ビジネスモデルのうち、コンピュータやインターネットを利用して処理が行われるシステムや方法であれば、特許で保護されるのである。

ところで、日本では年間33万件近くの特許申請がされているが、皆さんは、この1割の3万件ほどのヒット商品が毎年、産まれてきていることを実感しているだろうか?

答えはNOであろう。

すなわち、発明を創造よりも、市場を創造することのほうが困難ではないか、ということが予想できよう。しかし、発明を組み合わせれば、市場を創造しやすくなることは事実のようだ。

我々が、この製品は革新的だと思うような商品、例えば、アップルのiPhoneや富士重工のレボーグなどの車は、知財ミックスと言われ、数多くの知的財産が埋め込まれている。それは、その機能を実現する発明のみならず、外観やパッケージ、又は、アイコン等のデザインや、消費者が覚えやすいネーミングなどの複数の知財がミックスされた製品なのである。逆に言うと、市場を創造するには、知財ミックスであることが前提条件となる。

多くの発明やデザインをミックスしないと、市場を創造することはできない・・とすると、自分がヒット商品を創造できるのだろうか・・と不安に感じる経営者もいるだろう。しかし、そのような受動的な考え方では、市場は創造できないのではないだろうか。

なぜなら、市場を創造するとは、既存の技術などの固定観念に捕らわれず、消費者が純粋にほしいと感じているアイデアに対し、新しい技術を産みだして実現された産物なのである。そのような産物だからこそ、結果として、新しい”知”がミックスされた製品になっており、市場が創造されるのである。

私の事務所には、九州の多くの発明家に訪れていただくが、彼らが悩んでいることは、発明品を販売し、ヒット商品にすることである。どうやったらヒット商品になるか?成功されている発明家の共通した考え方は、発明の完成を最初の一歩にすぎないと捉え、市場の創造に向けて、さらに、歩き始める人たちではないだろうか。

(宮崎太陽銀行 掲載コラムより)

2014年9月28日日曜日

未充足ニーズから商品開発 (マーケと知財のイノベーション②)

マーケティング思考でビジネスをはじめる為には、『まずは商品ありき』の思考方法から脱皮し、『消費者ニーズ』の思考方法に転換することができるかどうかが、大きな分かれ目である。

『商品ありき』の思考方法とは、商品を作れば売れるという思考方法である。戦後すぐの時代は物が足りなかったため、商品の提供そのものが消費者ニーズに合致していたといえる。一方、『消費者ニーズ』の思考方法とは、少し先の時代を先取りし、消費者ニーズを捉えて商品を提供しないと、商品は売れていかないという思考である。

しかし、前述の『商品ありき』から、『消費者ニーズ』へと本当の意味で思考方法を変化させるのが難しい。というのも、各種業界で『商品』を売るビジネスを行い、現在も会社が存続しているのに、なぜ、『商品ありき』の思考方法から、『消費者ニーズ』の思考方法へと変更しなくてはならないのかが理解できないのである。例えば、新入社員が入社し先輩から教育を受けるが、その先輩の指導の思考方法はさらに先輩の指導者から受け継いできた思考方法である。だから、その思考方法が間違っているとは新入社員には思えないのである。戦後しばらくは役に立った正しい思考方法として継承されてきたので、その思考方法が役に立たないと今更言われても、身体の隅々までいきわたっている思考方法を変えられないといった事実が存在する。

この「作れば売れる」思考方法は、もはや現在の成熟した消費社会にはマッチしない。今の社会では、『はじめに商品ありき』という思考方法から脱皮し『はじめに消費者ニーズありき』思考方法に変化が出てくれば、おのずと『売れる商品』が開発される確率が高くなるということである。

昔々、大正時代に佐賀から大阪に会社の主体を移した経営者がいた。江崎グリコの社主江崎 利一氏である。江崎利一氏の言葉に「消費者の腹の中で考えよ」という言葉がある。さすがに大ヒット商品を世に送り出した人物であるから、商品を購入してくれるのは「消費者」であることを痛いほど知っていた。だから、社長である江崎利一氏が自分で思考するのではなく、「消費者は何を欲しがっているのか」と考えたのである。出来上がった商品が、「一粒で300mキャラメル『グリコ』(一粒で2度おいしいというコピーも有名)」となった。

江崎 利一氏の言葉にあるように、「本当に売れる商品」にするためには、会社都合ではなく「消費者」側に立った商品開発が必然的に必要になる。「本当に売れる商品とは何か」の解は、「未だに満たされていない消費者のニーズ」を探し出して、消費者の目の前に提示することで得られるものである。それでは、本当のマーケティングとはとは何か?
また、次回へ・・。


2014年7月27日日曜日

ミュンヘン訪問



欧州特許庁を訪問しました。本部はミュンヘンにあり、中央駅から歩いて約10分程度。

驚いたのは、レストラン・カフェ・バーがそれぞれ併設で、メニューが豪華でした・・。
JPOと比較しては失礼かもしれませんが、欧州のトップクラスが働く環境とはこういうものかと・・
考えさせられました。若干、環境が良すぎるような気も・・・。




欧州特許庁から数分の特許事務所に、宮崎県出身の弁理士がいらっしゃいます。
横山氏を訪問しました。
伝統ある特許事務所の数少ない採用を勝ち取った彼が宮崎県出身ということで
自分まで誇らしくなりました。

2014年6月9日月曜日

ミュージックセキュリティーズさんに事務所に訪問頂きました。


ラウドファンディングというと、九州ではFAAVOが有名ですが選択肢が増えそうです。ミュージックセキュリティーズさんに事務所に訪問頂きました。最初、個人のミュージシャンを支援するということで、小口1万円づつを1000人規模で集めて、1000万円近くを支援したそうです。これはマイクロ投資というらしいですが、今や、酒造りやJリーグ、農産物販売、震災支援の事業にまでこのやり方を発展させお金の支援とブランドづくりの両方の支援をしているようです。よくまあそれだけの人からお金を集められるなあと感心しますが・・彼らの会員となっている投資家の集まりを持っていることも強みのよう。FAAVOより集められる資金も多いようですが、ブランド指導は少し厳しそう!?
資金調達会社の特徴を知って起業家は利用したいですね。

2014年6月8日日曜日

戦略の前に「想い」ありき

 イノベーションとは果たして何だろうか? 以前は「技術革新」という言葉で訳されていたが、インターネット百科事典「ウィキペデイア」には次のように書いてある。「一般には新しい技術の発明と誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革」
 日本では、年間約35万件の特許申請がされている。しかしながら、なぜ、イノベーションの数がそれほど感じられないのであろうか?
 筆者はかつてIBM、ヤフーなどの研究機関に出向き、発明相談を受け、特許申請を行ってきた。この際に、技術革新と呼ばれる新技術を実感していながら、なぜ、これらの会社が飛躍的なイノベーションを行っているように感じなかったのか疑問であった。
 技術革新=イノベーションではない。イノベーションとは、ある新しい知(まだ認知されていない知)を自発的に社会に導入させて、人々の習慣や考え方を変化させる活動であろう。これを行うのは、企業であっても、社会活動家であっても構わないが、持続的にこれを行うためには、企業の利益活動(マーケット活動)と結びつけることが一般的である。
 それでは、どうやってイノベーションを起こせるのか。イノベーションを起こすための戦略やロードマップは、果たしてどうやって作ればよいのか。しかし、前提として、戦略やロードマップよりも、イノベーションを起こすための重要な要素がある。
 カリフォルニア大学(米国)の名誉教授・野中郁次郎氏は、イノベーションに最も必要なことに「想い」というキーワードを挙げている。「月に行きたいと思わなければ月には行かなかった、とはよく言われるが、なんとか実現したいという想いこそが不可能を可能にし、イノベーションを実現する」
 イノベーションを起こすために必要なことは、技術的な要素よりも、むしろ、成し遂げようとする「強い想い」、「諦めない想い」であろう。これらが、多くの人々を変革する原動力となるからだ。
 「想い」に地域は関係ない。宮崎であっても当然、イノベーションは起こせるはずだ。むしろ、経済的に厳しい宮崎のために何かを成し遂げたいと考えれば、なおさら、想いは募るはずだ。
 現実に筆者も宮崎で、想いの強い中小企業の経営者にお会いしてきた。しかし、宮崎には、その想いを具現化する方法に関する情報が十分ではないことも否めない。
 そこで、本ブログでも、イノベーションのための戦略について議論していきたい。特に、地域産品を含めた製造業のマーケティングと、一時的な利益を継続的に持続させるための知的財産権の活用について検証していく。

  

2014年5月18日日曜日

オープンイノベーションを中小企業に

最近「シェア」という言葉が、業界の市場占有率を意味する言葉から、フェイスブックやツイッター等で、個人のつぶやきの共有を意味する言葉になった。

時代の流れは、一人で独占するより、他人と共有することを推奨しているのであろうか。そして、ビジネスまでも共有する時代になりつつある。それが、オープン・イノベーションという考え方だ。

米国半導体王手のインテルは、「インテル・インサイド」というコマーシャルで有名なように、パソコンの部品であるCPU(中央集積回路)の製造販売メーカであるため、CPUとそのCPUにデータの入出力を行う周辺の基板部分(マザーボード)の技術に特徴がある。彼らは、このCPU部分とマザーボード部分との両方の特許を取得するが、マザーボード部分に関しては、協力会社である台湾のメーカに安く特許をライセンスさせ、自由に製造させる。一方、CPUの部分は、他社へのライセンスを許さず、自社のみが製造・販売した。すると台湾メーカが安くマザーボードを販売することで、市場に多くのマザーボードが流通し、このマザーボードを使って、NECなどのパソコンメーカが組立てを行い、パソコン販売を始める。この際、このマザーボードに、インテルのCPUを内蔵させないとパソコンは動かないため、販売を独占しているインテルのCPUを、NECが購入して、市場に販売するようになる。結果として、インテルのCPUが高く多く売れるのである。すなわち、自社の技術の一部は、イノベーションを誘発するため台湾メーカのような他社に自由に使わせて、自社のコアとなる技術は、特許でしっかり防衛し、自社が独占し、利益を確保するということである。

「知的財産権なきイノベーションは慈善事業である」(大阪大学客員教授 玉井誠一郎氏)と指摘されるように、何か商業的な成功をするのであれば、どこか自社を守る部分を設けておかないと、他社による競合製品の進出により、持続的な経済活動は困難となるということである。この考え方は、「オープン&クローズ戦略」(関西学院大学客員教授の小川紘一氏)と言われ、自社のどの部分をオープンにして、どの部分をクローズにするかという「知」のマネジメントの重要性が指摘されている。この戦略は、大企業のみならず、中小企業にも応用できる。

都農でトマト鍋の元を製造販売している「都農もりあげ隊」代表の矢野純子さんは、デザイン化された「都農トマト鍋」という文字で商標を取得するか「都農もりあげ隊」という製造者名で商標を取得するか悩んでいた。矢野さんは、都農全体でトマト鍋を流行らせたいという意思をお持ちで「都農トマト鍋」の言葉を自分だけが独占している印象を与えたくないとのこと。でも、出所を示す「都農もりあげ隊」は真似されたくない。そこで、「都農もりあげ隊」の商標を取得した。「都農トマト鍋」という言葉をオープンにすることで他社や行政の協力を得られる一方で、自分たちの製造者のブランドを商標権で守る。

ビジネス成功の確率を僅かでも上げるため、小さくとも有効なオープン&クローズの考え方を意識したい。 

2014年4月4日金曜日

宮崎発 マーケと知財のイノベーション

宮崎日日新聞の経済欄で、毎週木曜日、マーケターの橋口さんと弁理士小木の掲載が始まりました。

Webページ「みやビズ」でも配信されていますので、御覧ください。(有料ですが・・、ぜひ、ご登録を・・)。

http://miyabiz.com/contents/economics/category_16/_12703.html


私(小木)は、弁理士合格後、技術経営に興味があったため、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)のMOTへ進学することを決めていました。しかし、急遽、妻の仕事の都合で、宮崎に来ることになりました。

自分の頭の中では、「大学院での座学よりも、厳しい地方の現場のほうが勉強になるのでは・・」という直感が働いていました。

大学院への進学を決めたのは、技術経営に興味が沸いたからです。我々、弁理士が業務とする、知的財産って、もっとビジネスの根幹を理解しないと、本質的なことがわからないのでは、という疑問からでした。

いくつかの書籍を巡っているうちに、野中郁次郎先生と出会いました。この方、MOTでは世界的に著名な先生です。知的創造に関する、暗黙知やSWCIモデルなどは、私もブログで書かせていただきました。

この権威の方が、最近、ものづくりに一番大事なものは、「想い」ということを言っています。戦略ではなく、「想い(思い)」ということです・・。皆さん、どう思いますか?当時、JAISTの先輩は、野中郁次郎先生が、最近、想いとか、非科学的なこと言っているから、学問的に妥当性にかけるのでは・・という発言を聞き、論理的なことを重要視していた当時の私にとっては、「想い」って、なんだか、感覚的だな・・と感じていました。


宮崎に来て、3年。200社近く、異業種の中小企業の経営者に出会ってきました。


「やっぱり、想いだな」


という結論です。

どんな戦略よりも、まずは、「強い想い」がなくては、何も始まらない。その技術的な侵略を駆使しようという意志は、想いがなければ、何も動機づけされませんし、戦略そのものだって思いつきません。当たり前のことです。もちろん、やっていやるぞ!という強い想いという意味でも重要ですし、なぜ、ものが売れないのか?と考えた時に、自分が顧客のことを考えていないから、想いが足りないから・・と考えることは、本質をついているのではないでしょうか?

太宰治が、憂いに「人」がついて、「優しい」。「優しい」という字は、「優れている」とも読む。

ということを、人間失格で言っています。

つまり、人のことを憂て、考えることは、優れていくということかもしれません。

優れた経営していきたいですね。


是非、来週木曜日からの宮崎日日新聞 経済欄もしくは、みやビズの記事をお読みいただければ幸いです。よろしくお願いします!

2014年3月30日日曜日

中小企業も意識したい「オープン&クローズ戦略」

「シャープやソニーの敗退は、ものづくりのアイデアで敗戦しているのではなく、そのアイデアをオープンにしたり、クローズにする”知”の取り扱いのマネジメント、いわば、知的財産マネジメントの敗戦だったのではないか。」


小川紘一先生著の「オープン&クローズ戦略」では、日本のこれらかのものづくりに必要な要素をこう分析しています。

ここで、知的財産とは、特許や意匠、実用新案など、いわゆる、知的財産権に限定されないので、うちは、特許とか持っていないし・・という経営者も、もう少しおつきあいください。

ここでの知的財産とは、価値ある製品・サービスのための情報と捉えると、わかりやすいように思います。

平たく言うと、あなたの企業にとって、価値のある”知”のどこまでを、他社にオープンにして、どこまでをクローズにする・・とったことを考えいますか?という問題提起をしています。

ツイッターなどの情報伝達技術の発達や、グローバル人材の活発化により、企業の”知”が他社に知られる速度は、今や格段に早くなりました。この速度が遅くなることは考えにくい。

確かに、ツイッターやSNSのお陰で、我々が人に知ってもらいたい情報、すなわち、広告宣伝やPR等、オープンにしたい情報を多くの人に知ってもらうための利便性は、格段に増しました。また、大企業を退職されて、中小企業へ就職したシニア世代のお陰で、中小企業のオートメーション化が進んだり、新商品開発の意識が高まっている中小企業も、筆者は目の当たりにしてきました。

しかし、逆の立場になると、本当に守りたい”知”も、非常に短期間で、外部に知られてしまう可能性は、常に存在するということです。

したがって、我々は、企業内の”知”について、オープンにする情報と、クローズにする情報を意識的に区別する企業の知の戦略=知的財産マネジメントが必要ではないか、ということです。

有名な話ですが、インテルの場合で説明します。

インテルは、御存知の通り、「インテル入ってる」というCMで、多くのパソコンのCPUを製造・販売する会社です。かつて、インテルは、単にパソコンメーカなどから要求のあった半導体を受注で作るのみの、言わば、受け身の会社でしたが、顧客であるパソコンメーカの未来を創造して、それに適したCPUを提案するという提案型のビジネスで、部品であるCPUの売上を上げたと言われます。

しかし、インテルのマネジメントはこれで終わりません。未来の提案でパソコンメーカである顧客の関心を誘うことで、受注が増えると、当然、CPUの供給を間に合わせる必要が生じます。

そこで、インテルは、オープン&クローズ戦略による”知”のマネジメントで、この問題を解決しました。

インテルのコア技術は、CPUに関する技術です。そして、そのCPUの入出力に関するマザーボード等のインターフェース部分も当然、彼らの技術範疇になります。彼らは、このCPUとそのインターフェースに関する特許を、それぞれ取得しました。

そして、マザーボード等のインターフェース部分を台湾などのメーカに特許をライセンス(若干、安めにライセンスしたのではないかと考えられます)し、その技術を、契約という形で制限しながらも、少しだけ”知”をオープンにしました。台湾メーカによる参入のいわばイノベーションの誘発です。

しかし、CPUコア技術に関しては、特許をライセンスしません。ここは、死守すべき技術として、他社の製造・販売を許すことはなく、自社の製造を向上させるべく、設備投資をしました。

そうすると、どういう事が起きるかといいますと、台湾メーカが大量の安価なマザーボードを供給し、日本の富士通やNECなどが大量のパソコンを製造する。しかし、マザーボードはインテルのCPU用ですから、CPUはインテルを入れないと、パソコンは動きません。ですので、富士通やNECなどのパソコンメーカは、インテルのCPUが多少、高価であっても、購入しなくてはいけなくなります。

こうやって、オープン化による台湾メーカの参入を促し、市場に多くのインテル用のマザーボードを供給させる一方で、そのマザーボードに必ず供給されるCPUはクローズですから、価格競争となることもなく、高い値段で多くのCPUを市場に導入させる・・ということを、成し遂げました。

付随的な結果として、パソコンメーカは、インテルの提案に頼ることとなり、パソコンの未来を自社で考えられなくなったのでは・・と考えられます。

このインテルの例から、2つほど、中小企業は、学べるかと思います。

1 部品メーカであっても、最終製品の未来を提案するほどの提案力をつける。

そして、下記が特に重要なのですが、

2 貴社がクローズにすべきコア技術(CPUにあたる部分)が何で、貴社がオープンにして他社への協力を得るべき技術(マザーボードにあたる部分)が何かについて明確化し、ビジネスを仕掛ける。

2こそが、知的財産マネジメントであり、それは、1のような従来のマーケティング方法とは異なり、自らの価値のある”知”を市場とどのような接点を持つか事前に考えて、ビジネスを仕掛ける戦略なのです。これは、地方であっても、零細企業であってもできることですし、また、特別な特許技術がなくても、考えられることです。

例えば、先日、宮崎県の都農町で、「都農トマト鍋」というレトルトのトマトスープを販売している団体(都農もりあげ隊)の代表の方とお会いしました。この方は、「トマト鍋という言葉は、都農町全体で、はやらせたい」とおっしゃっていました。そこで、商標としては、「都農トマト鍋」(文字のみであれば地域団体商標になります)では申請せずに、団体の名前である「都農もりあげ隊」で申請しました。

小さいことかもしれませんが、この例では、「都農トマト鍋」を都農地方のトマト農家全体で盛り上げる・・といったオープン戦略(イノベーションの誘発)と、その商品の出所を表す「都農もりあげ隊」は、商標で守りたいといったクローズ戦略を意識しています。このような戦略は、小さいようで、効果としては大きいです。例えば、「都農トマト鍋」の商標を取ってしまったら(*)、都農地域の「トマト鍋」の他社の参入を許さないので、「トマト鍋」自体が、この地域全体で流行らなくなってしまう可能性があります。しかし、ここはオープンとすることで、地域全体での宣伝効果が高まる(それのみではなく、行政に協力してもらいやすい)といったメリットがうまれるのです。

まずは、自社のコア技術って、なんだろう・・他社からの強みって、なんだろう・・そんなことに意識を向けてみませんか?その方法としては、SWOT分析などが有名ですが、知財まで見通すという意味では、知的資産経営報告書を作成するという方法が一般的です。また、次回に。


(*)「都農トマト鍋」の文字そのものは、地名+普通名称の組み合わせで商標の登録は困難とも言えますが、よくあるケースとして、ロゴなどと組み合わせて権利化する場合です。ロゴも権利に含まれますが、一般には、文字で権利が取られたと誤解されてしまうことが多く、結果として、他社の参入が促されないことも多くいです。

2014年2月18日火曜日

アイデアのコンサルティングは誰がやるべき!?

4月より特許法等知財の四法が改正される予定です。商標法では、「音」や「色」など、新たな保護対象が加えられますし、特許法では、特許の異議申立てが復活するなど、ちょっとした大きな変更になりそうです。

この中で、弁理士法が改正される予定があります。下記の日経工業新聞からの記事では、「弁理士法改正案では中小企業などが温めているアイデア段階の技術を含め、権利化を見据えた相談を受けることを「業務」として位置付ける。」ということで、一般の方からは、「え!今までそれって、仕事でなかったの?」と逆に驚かれるのでは?と思います。

弁理士は、基本的には、「特許庁への手続き代理業務」なのです。すなわち、言わば、代書屋さんや権利取得時の代理人のみであったのが現状でした。これに対して、さらに、踏み込んで、企業のアイデア段階でのコンサルティング業までを、弁理士の業務として位置づけようという試みです。

例えば、特許を申請しないで、ノウハウ管理にすべき・・なんてアドバイスや、差別化技術の抽出などの提案を弁理士から受けることができるでしょう。

とはいっても、このような提案は、既に、知財経営と呼ばれる、経営コンサルとしての能力もある弁理士さんは、既に始めています。

弁理士が、単に、知的財産の書類や権利化を扱うのみではなく、実践的に起業の知を有効化する専門家となるということを意味し、この改正は、有意義な試みだと思われます。

一点だけ、懸念点があります。このようなアイデア活用業務を、弁理士の専権業務とせずに、開かれた業務とすべきということです。特許庁への代理業務は、中小企業診断士や税理士ではできない、弁理士だけができる専用職です。これと同様に、アイデア段階の業務まで、弁理士のみが取り扱えるようにすると、この業務を他の士業が行うことができなくなります。弁理士は1万人程度しかいませんので、400万近くの中小企業に応えるのは充分ではないですし、コンサルが得意な弁理士はあまり多くないのではという懸念もあります。つまり、弁理士のみでの力では、企業の支援が充分でなくなる恐れがあります。

企業の差別化技術を抽出して、強みを意識化させる試みは、当然、容易では有りません。中小企業診断士、弁理士、技術士などが協力しあって、解決していくことが望ましいでしょう。

企業のために、開かれた役割の中に位置づけられる弁理士が、将来的に望まれているのではないかと考えます。

改正の記事は、下記より。「日経工業新聞:2014年2月7日」

http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1520140207abas.html