2012年6月1日金曜日

発明をビジネスにするには

「椅子」(著:井上昇先生)という装丁も美しい本があります。椅子のデザインから制作、意匠登録までのノウハウをわかりやすく明確に、各ステージごとに具体的に解説した名著。

この冒頭に書かれていることは、あたり前のことですが、とても大事な示唆を頂きます。

「椅子塾生50名の作品は、自分で製作した人もいますが、ほとんどの人は、プロの職人さんにお願いして製作しています。これには理由があり、デンマークを代表する家具デザイナー、故ハンス・ウエグナーさんを尋ねた際に、デンマーク一流の家具職人さんなしに、デザイナーであるウエグナーさんの名作はないと。デザイナーと家具職人。このコラボレーションがデンマークの椅子の評価が高い理由だと気がついたのです。」(多少、抜粋させて頂きました)

あたり前なのですが、各ステージで、それぞれのプロフェッショナルが力を合わせれば、最高のものづくりができます。

つまり、デザインするというステージでは、デザインの専門家が担当する。

デザインが完成して、製作をするステージでは、家具職人の専門家が担当する。

といったように、「各ステージでの専門家を尊重する」という考え方。


この精神は、発明をビジネス化する段階に必要なのではないかな、ということを提案したいです。

我々、知財の専門家を信用しろ!と、小さなことを言いたいのではありませんので、読み進めてくださいね。


発明者は、基本的には絶対的です。彼らが最初のアイデアの起点となり、基点となります。

ここで発明者を否定すると、アイデアの全てがなくなります。ですので、最初に発明者からのアイデアを聞く人は責任重大です(その役割が弁理士なのですが・・)。なので、それって世の中にあるよね、と簡単に否定してしまううと、デリケートな発明者ですと、二度と話してくれなくなり、起点は失われるのです。

このやり取りにおいて、重要なことがあります。発明者は必ずしもコミュニケーション能力が高いというわけでもなく、文章作成能力が高いわけでもありません。また、デザイン力も優れているとは限らないのです。

つまり、アイデアは素晴らしくても、それを人に伝える能力や、人に使ってもらえるようなデザイン力までもが長けているわけではないのです。

先日、画用紙にスケッチした発明家との打ち合わせがありました。確かにそのアイデアは、食品の現場を知っていることから生まれる画期的な食品トレイでした。

でも、そのスケッチが、あまりに、寂しい・・。

発明は、デザイン性を問いませんので、特許や実用新案を出すことはできます。

でも、ビジネス活用するモノづくりはそうはいきませんよね。

そこで、工業デザイナの方に、そのスケッチに基づいて、現実的に有りえる食品トレイをデザインして頂きました。
彼らは、現実に存在する、他の類似商品と比較し、素材やトレイの厚み、重さ、具体的に食品を載せた場合の形態、食品トレイを量産加工するための一体形成方法など、この新規の食品トレイに関わる考えられうるすべての事項を考慮して、デザインを図面に起こしました。

その図面を見るや・・。  素晴らしい・・。 よい発明ですね・・。と言ってしまうデザイン・・。


確かに、原型のスケッチと重要な構成としては、変わらないので、発明としては同じなのですが、現実的に工業製品として製造可能で、顧客が手にとりやすいデザインとなり、発明が現実的に、ものづくりの段階へと高まりました。

これは一例でして、工業デザイナと組めばデザインが良くなって、ビジネスがうまくいくよ、という単純なことを言いたいのではありません。

発明家の方は、なぜか、あまりに、自分の発明を自分だけのアイデアとして、抱え込んでしまって、そのアイデアを、そのアイデアの周辺に詳しい専門家の意見を聞けていないのではないか?ということを言いたいのです。

ですので、そのアイデアのデザイン化のみならず、どうやって売ったら良いのか、とか、どの顧客に聞けば良いのか、とか、試作版は誰に作ってもらったら良いのか・・とか、いろいろな助言者が必要です。これらを謙虚に、ひとつひとつ、専門家に教えて貰う必要があるのではないでしょうか。

当然、発明は新規性を担保するために、秘密にすることが重要です。しかし、発明者である、あなたは、皆さんに使ってもらって、便利だなと思ってもらうために、その発明をしたのではないですか?

ですので、特許を早めに出すなり、秘密保持契約をすることで、クローズの対策をしたら、それだけではなく、いろいろな専門家から意見を聞いて、アイデアを高めるということ、オープンなアプローチが大事なのではないでしょうか。

あなたの身近にいる専門家を信頼することが、発明をビジネスで成功させるキーポイントの一つかもしれません。

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